新渡戸稲造『修養』を緩く読む

新渡戸稲造『修養』(たちばな出版)を見ながら、およそ1日1ページを目標に緩い言葉づかいにするブログ。

42 その人の価値を決める基準

その人の価値を決める基準

 昔の詩人も、人物の価値を定めるには、その人のやった事業で数えるべきだと言う者がいる。
 たしかに事業を見れば、その人を測定する標準になる。
 けれど、これは他人が観察することで、その人が自分で決めることができない。

 4、5年前に、僕は大磯で伊藤博文公爵にお目にかかったことがある。それまで田舎ばかりにいて、名高い人に会ったことがなかった。
(もっとも、その後もあまり偉い人にお目にかかる機会はないが。)

 ちょうど少し時間がおありらしかったので、僕はこういう人にあったチャンスを利用しない手はないと考えた。
 伊藤博文公爵に、
「今までにあった人々の中で、誰が一番偉いと感じましたか。」
ということと、
「人が偉いというのは、本来何を基準として測るんですか。」ということを尋ねた。

 公爵は少し頭を傾けておられたが、「まあ、なした仕事だろうな。」と言われた。

 伊藤公爵がこういうふうに答えられたのは当然だろう。詩人もすでに同じことを言っている。

 しかしこれは世間が標準とすることであって、自分から定めるべきことではないだろう。そして、これは過去の歴史に富んでいて、未来の希望が減ってしまった者にあてはまる標準だ。

 

参考:『修養』新渡戸稲造(たちばな出版)